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『もめん随筆』で有名な森田たまさんは北海道生まれ、関東大震災で西宮に移って来られ、3年間過ごし、東京に戻ったあと再び西宮で4年間暮らされました。その印象を随筆集『ふるさとの味』の「故郷の味」と題したエッセイに述べられています。 ![]() <震災以来関西に居を移してみると、あまりに整いすぎたあたりの美しさに、何かお菓子の中にでも住んでいるような、迂闊に身動きもできぬようなあやうさを感ずるのであった。踏みしめる地面の土の色の白いという事からしてどうにも合点がなり難く、白砂青松と小学校の読本で習って憧れていた舞子の浜へも、行ってみるとおもちゃの国を眺めるようなそらぞらしさがあたまへきて、それが自然に成った風景とはどうしても信じられないのであった。> 子供時代を自然に恵まれた北海道で過ごされた森田たまさんの、初めて関西に来られた時の印象ですが、白砂青松の舞子の浜に人工美という印象を強く持たれたようです。 ![]() 明石大橋が間近に見える舞子公園に行くと、現在も立派な松林が残っています。 森田さんにとって、初めは馴染めなかった関西の風景ですが、長く阪神間に住んだあとは、阪神間の白ちゃけた土と、動かぬ石の多い山との風景をいつのまにやら愛するようになったと述べられています。 更に、 <その土地に住んでいる間じゅう、此処は日本一の住宅地だと土地の人の自慢するのを憎らしいものにきいていたけれど、離れてみればどうもそうであった、と承認せざるを得ないのである。> そして、最初に西宮で暮らした家からの景色を次のように述べられています。 <そこの二階の北側の窓をひらけば、すぐ眼の前に夙川の松林がつづいていて、その向こうにおもいのほか急な角度で立っている六甲の山の姿が、なつかしく浮かんでくるのである。梅雨明け頃のじっとり汗ばむ昼間、さ霧のあいだに霽れて行く山のひだひだの面白さ。紫に匂うような樹々の色の美しさ。> 森田さんが最初、西宮に住まれた家は夙川のパボーニのすぐ東側にありました。 ![]() 大石画伯がパボーニのベランダから描いた絵がありますが、森田さんが眺めた夙川の松、六甲山が描かれています。 ![]() 山下清が夙川パボーニに逗留し、同じベランダからマジックペンで描いた景色もありました。 この六甲山の景色、森田さんに札幌の藻岩山を思い出させたようです。 <あまりにも身近な山の姿に私はふと郷里札幌の藻岩山を思い出し、一層心を惹かれるのであったが、初めはあれ程馴染みにくかった関西の土地に安らかな憩いを見出すようになったのは、やはり生まれ故郷の片鱗をそこに発見したせいかも知れない。> ![]() 市街地に迫った山というの意味ではよく似ているかもしれません。 そして最後は次のように、阪神間は一番よいところだと結ばれています。 <人間の感情にも、東京のような洗練された美さはなくて、札幌も大阪もむき出しの喜怒哀楽をそのまま表してはばからぬ来易さが、一そう住みよく感じさせるのであったかもしれない。旅行というもののきらいな私は何処の新しい土地も知らず、ただ住み馴れた阪神間を一ばんよいところだとおもうばかりのことに過ぎぬ。> ![]() 上の写真は現在の夙川パボーニ跡地付近からの景色です。集合住宅も増え、夙川の松並木、カトリック夙川教会や六甲山も見えにくくなりました。
by seitar0
| 2019-10-21 15:07
| パボーニ
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